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とても静かな映画だった。

冒頭に華子が婚約者に振られてしまったことは彼女にとっては些細なことだったのかもしれないけど、物語的には一大事であるはず。ただし、それは描写されることなく演者の口からその事実が発されるのみだった。いずれにせよ物語は出来事で始まった、そしてまた一つの出来事でこの物語は幕を閉じた、と私は受け取った。

“静かな映画"と言ったのは、物語が展開されていかない、出来事が起きないということを意味してのことだ。華子は婚約者に振られたのちもお見合いや紹介で婚活をして見事ゴールインするけれど、これは出来事が起こった気がしない。物語が展開されるというよりは華子の夫の幸一郎や友人の逸子を含む人物たちが所属する階層についての丁寧な描写に見えた。

また別の視点からこの階層の丁寧な描写がなされる。地方の出身で幸一郎と同じ大学に入学した時岡美紀の存在を通して。ここでも出来事が起こった気がしない。人は皆違うから誰かと会話をすれば、多かれ少なかれ共通点があるように異なる点も見つかってくる。ただ、地方出身の美紀と都会の貴族である幸一郎が大学で出会い描写される二人の相違点はどこか見知った、二人の個性によって生まれるものではなく育ちの違い、つまり階層の違いによったものだ。これは出来事だろうか?

階層が内(華子)からの視点と外(美紀)からの視点で描写された。ここまできて偶然にこの二人が出会った。移動は常にタクシーという箱入り娘である華子がタクシーの窓から見えた美紀を呼び止め彼女の家にあがり、棒アイスを咥えベランダからの景色を目にする、これが起承転結の転に当たる出来事ではないか。

ところで、この映画の空はすべて雨が降っているか曇りのぼんやりした空だった気がする。華子が美紀の部屋から見る夜空と最後の音楽会の芝生で遊ぶシーンを除いて。

画像は公式サイトより